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[モードの極意]56:買ったものと買えないこと。
本は、その内容を読むことによりもむしろ、
買って帰るまでに意義の大半があると言ったのは誰でしたか……。
本好きの方になら、何となくうなずいていただける話だと思えるのですが、
どうでしょうか?
もちろん、そうは言っても、たいていはちゃんと読みますけれど。
それに対して、ファッションの場合はどうでしょう。
お気に入りのブランドで買い物をするときなどには、
買うこと自体の楽しさを感じていたり、
手に入れたという所有の喜びが満たされることを
想像しながら服を見ていたりします。
そして家に帰り着いたとき、
さっきまで見つめ、眺め倒して、試着もして、
目を閉じても思い浮かべられるくらいに向き合って買ってきた服でも、
また改めて心躍る気持ちで包みをといて、
鏡の前で合わせてみる。
そして、それを着て出かけるときの喜びといったら。
今はそんな気持ちが薄らいでいるなと言うあなたでも、
振り返ればきっと思い当たることではないでしょうか。
でも、そんなふうにして、ファッションと関わり続けていても、
いつの頃からか買うこと自体、
アイテムが増えていくこと自体に
喜びを感じるようになってしまったりします。
そんな所有の喜びを否定するわけではありませんが、
それだけでは何だかもったいないような、
何かが足りていないような気がしてきます。
恐縮ながら、自分のことを例にして考えてみます。
最近は自転車通勤が多いせいか、
カジュアルな服装をしていることがほとんど。
今までに買い揃えたアイテムの多くは、
ややストック(在庫)と化してしまって、あまり着られていません。
スーツやテーラード系のジャケット&パンツ、コート類などですね。
着ないのならば、友人にあげるとか、誰かに売るとかでもして、
生かしてあげる方法を考えるべきだと思えてきます。
「いやいや、まず自分で着るのが先決なんじゃないか?」
あ、そうですね。まずはそれかも知れません。(苦笑)
なんていうことを思ってみたときに感じたこと。
好きだから長く着たいと、
服を大切に扱ってあげることは必要ですが、
長く持たせることを第一義にしてしまっては本末転倒でしょう。
「服は着倒す」のが最良。
なぜなら、新品としての価値は着るたびに、
時間が経過していくごとに減じられていきます。
古着という価値観もありますが、
それだって思い直してみれば、
古いものを新品として買っていると考えることが
できます。そうしてみたときには、
買ったものの価値はそのときが最高値。
あとは減っていく場合がほとんどです。
けれどもファッションの場合には、
着倒す過程で増えて行くものもあります。
それこそが、経験値に裏打ちされた
ファッション・センスなのではないでしょうか。
何を着ても似合うモデルは、着るのが仕事。
そうでなくては務まりません。
しかし、普通に見える人たちの中にも、
何を着ても様になってしまう人がいます。
そんな人たちはきっと、
着倒して行くことでしか身につけることができない、
世界で自分ひとりしか手に入れることができない、
貴重な経験を重ねてきたのではないかなとおもうのです。
(No.56:買ったものと買えないこと。~終)
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